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「天下は実に春で。雲はのぼせてぼうつとしてるし」は敬愛する草野心平さんの詩「春」出だしの一節です。実はこの一節を「草木も眠くてぼうっとしてるし」とずっと思い込んでいた私はいつもこの時期になると、自分流の一節を思い起こしてなるほどなるほどと感心していました。今回、久しぶりに詩集を紐解いて間違いに気がつきました。きっと自分の頭のなかがこの時期にはいつもぼうっとしてしまっているので草木も同じようなものだと勘違いしていたのです。僕の眼にはやわらかい陽射しをいっぱい浴びた土手などはそう思えていたのですね。実はこの季節の草木は地中のあちらこちらで蠢き、嬉しくって萌えているのです。ボーっとなどとはしていないはず。なんともそんな私の春も昨年の30倍などという途方もない杉花粉の襲来におののいて、ひなたぼっこはどこへやらです。一昔前のこの頃には、家族で土筆を籠いっぱいに摘んできました。新聞紙に拡げ、一晩かけて手を真っ黒にして袴を取り佃煮を作ったことを思い出します。それでも出来上がったのは小瓶に数本。これを冷蔵庫に入れて宝物のようにいつまでも楽しんだことを思い出します。心平さんの詩は続きます。「利根川べりのアカシヤの林や桃畑の中をあるき。おつけのおかずになづなをつみ土筆をつみ。何とも美しいバラの新芽をつみ。樹木や草からは新しい精神が。それらがやわらかにぬくまって燃え。…」
*長さ150o程の流木に猫が肩を寄せて坐っています。題「ひなたぼこ」。その前にはつんつん土筆や菫。
*茶筒は140oの大きさで題「天道虫」。楮の和紙に墨跡と真っ赤な、ななほしてんとう。
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